2009年06月06日

「ファルコム音楽フリー宣言」に思う

ゲーム関係のみならず、一般のニュースサイトでも取り上げられた「ファルコム音楽フリー宣言」。
その内容が非常に画期的であることは間違いないのですが、これがゲームミュージック業界において極めて特殊な環境下においてのみ成立し得た戦略であることを考えると、何とももどかしくなる部分もあったりします。
今回はそんなお話です。

まず、件のフリー宣言の内容についてのおさらいをしておきます。
「できること」で考えてしまうと様々なパターンが出てきてしまいますので、ここでは「やってはいけないこと」で考えることにします。非常にざっくりとまとめると、「やってはいけないこと」は以下の4点に集約されます。

・楽曲のオリジナルをコピーすること
・楽曲のオリジナルをコピーできる状態にすること
・有償無償を問わず、ゲームに使用すること
・楽曲を使用した制作物で許可無く商行為を行なうこと

もっとぶっちゃけて言えば、

「ファルコムの商売の邪魔をするな」
「人のふんどしで相撲をとるな」

ということになります。まあ、コンテンツホルダーの企業としては当たり前の考え方ですね。「フリー宣言」とは言いながらも、制限はきっちり存在しているわけです。


さて、今回のフリー宣言で恩恵を受けるのはもっぱら利用者であると考えられていますが、ファルコムにもそれなりの利益があります。簡単にまとめると、以下の2点です。

・自社の楽曲が使われる機会を増やすことは、自社作品の宣伝になる
 →オリジナル楽曲CDの売り上げ、ゲームの売り上げ増加に寄与

・利用者とファルコム双方が恩恵を得るWin-Winの関係が成立
 →企業イメージの向上

ネット世間では「英断だ」という称賛もあるようですが、こうしてみると非常にシンプルな商業的戦略であることがわかります。
もっとも、YouTubeやニコ動といった共有コミュニティの普及を目の前にして、こういった戦略すら立てられなかったのが既存の音楽業界であるわけですから、ある意味英断……というか、考えるだけだったことをあえて実行してみせたという意味ではコロンブスの卵と言った方がいいのかもしれません。


ところで、ファルコムがこういった施策を実行することができたのは、自社作品の楽曲の権利およびレーベルを全て自社で管理していたからに他なりません。正直、私はゲームミュージックの権利関係とかにはあまり詳しくないのですが、

・ある一定以上のクオリティの楽曲を
・3,000曲以上
・全て自社で管理していて
・レーベルも自前で持っている

というメーカーは、おそらくファルコムだけではないかと思っています。
JASRACに権利の管理委託をしているメーカーが同じようなことをしようとしたら、当然ながらJASRACに止められてしまうでしょう。ましてや、昔のゲームともなると音楽の権利がレーベルのものになっていたり権利者であったメーカー自体が消滅していたりという事例も多いようで、その場合はフリー宣言どころの話ではなくなってしまいます。

結局のところ、「音楽フリー宣言」を企業として実行し、相応の利益が期待できるという判断にまで至ったのはファルコムだけだったのではないでしょうか。おそらく、他のゲームメーカーやコンポーザー諸氏には真似のできない戦略だったのではないかと考えます。

今回の宣言はYouTubeやニコ動といった共有コミュニティに歓迎され、その結果有形無形の利益を生むことになるでしょう。しかし、それはあくまでファルコムの一人勝ち。ゲームミュージック業界全体にとっての影響は(残念ながら)ほとんど無いものと思われます。ファルコムの作品を通じてゲームミュージックというジャンルに興味を持つ人たちが増えたりしてくれたら、それはそれで良いことですが。

ゲームミュージックの権利の問題は、(私の寡聞もあってか)かなりの部分が謎に包まれています。果たして、本来の著作権者であるコンポーザー諸氏は、今回のフリー宣言をどのように受け止めているのでしょう。ぜひお話を伺ってみたいものです。


参考記事:
「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言
マイクロソフト、ゲーム楽曲をライセンス提供へ
posted by まれいん at 22:42| Comment(7) | TrackBack(0) | 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。どうも素敵な文章ありがたくお読みしました。私は外国人なのでちょっと日本語がおかしいかも知れませんが、感謝の気持ちを伝えたく、こうしてコメントにしてみます。
私もゲーム音楽がとても好きな方で、楽譜を作ったり、midiとか演奏もしてみたりしていますが、どうも著作権というのが気になって好きな曲があってもそれをネットの中の多くの人と楽しめないというのがとても気になっていました。それで今回ファルコムの音楽フリー宣言がそんな一面で私にとってはほんとうに助かる(?)宣言でもありました。
まれいんさんは他のゲームメーカはこんな戦略が可能ではないと、仰っていますよね。この宣言においてのファルコムの音楽は「特別な状況だから」。それでも他のゲーム音楽のメーカにこの宣言のような期待をしているのはやっぱり無理でしょうか。ゲーム音楽を趣味としていれば、多分皆これに気づくでしょうね。もっと時間が過ぎてこの宣言がファルコムにどんな影響を与えたのかによって他のメーカもこんなことするのかなとそっと想像してみましたが、ファルコムならではのことであったらちょっと淋しくなるものです。

仰ったとおり、音楽家はこの宣言をどう考えているのかもとても気になります。まぁ、今後どうなるでしょうかね・・

ps、あの、とても図々しいとは思いますが、まれいんさんの書いていらっしゃる文章はゲームミュージックが好きな人だったら是非知っておきたいご意見だと思います。そこでちょっとまれいんさんの意見を翻訳してみようと思いますが可能ですか?翻訳する形は記事一つ一つをまるっきり紹介する、という形になると思います…翻訳するページのurlとかも載りますのでご心配なく。もし許してくださるのならばコメントお願いします。
Posted by エンスヘンデ at 2009年07月08日 12:43
>エンスヘンデさん
はじめまして。
外国人の方からコメントを頂くのは初めてです。どうもありがとうございます。
とてもきちんとした日本語で、感動しつつ読ませて頂きました。

演奏系(?)のゲームミュージックファンの方々にとって、今回のファルコムの判断は非常に有意義なものであったと思います。
ただ、記事にも書いたとおり、残念ながらこれはファルコムだからこそ為し得たことであり、ゲームミュージック業界全体に波及するものとはならないのではと考えています。もしも追随するメーカーなりレーベルなりが出てくるとしたら、それこそ「英断」と呼べるかもしれません。
とはいえ、今回のフリー宣言がゲームミュージックに一陣の自由の風を吹き込んだのは間違いないことで、今後どれほどの効果を生むのかは非常に興味深いところです。

さて、翻訳の件ですが。お申し出を頂いて、大変光栄に思っています。
自分の意見がより多くの方の目に触れるのはとてもうれしいことですので、こんな拙文でよければどうぞご自由に翻訳なさって下さい。
訳文を公開されたら、この記事へのコメントもしくはメールにて、そのページのURLをお教え頂けると幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
Posted by まれいん at 2009年07月08日 21:48
許可ありがとうございます^^ご覧のとおり、能力は未熟ですが、最善を尽くしてみます。公開したらまたここにコメントしますね:D ☆彡
Posted by エンスヘンデ at 2009年07月09日 17:43
こんばんは、いっきです。
ファルコム音楽フリー宣言、ですね。

最初この見出しに触れたとき、特別おおっというような感じは受けませんでした。
営利企業である限り、大きな財産である楽曲すべてをいかようにされてもオッケー!
なんてことはありえないことが分かっていたからです。

で、つまるところ公式HPにある「これらの楽曲をゲームミュージックファンだけにとどまらず、
今まで以上に多くの人々へ届けたい」というこの言葉にすべてが集約されていると思います。
つまり、固定ファンはほっといても新作の音楽をチェックしてくれるんだから、
関心のない人へ向けての商品アピールの方法の最適解は何か?ということを、企業として
検討した結果なのだろうと私は受け止めています。

なんか書いてて冷め切ったコメントだなあと自己嫌悪に陥りましたが、1986年当時、
PC版イースでグラフィックとシナリオとサウンドの高い次元での融合を見せられてすっかり
ヤラれてしまったオッサンによる今の率直な感想です(笑)。
Posted by いっき at 2009年07月16日 01:18
>いっきさん
フリー宣言の解釈については、全くおっしゃるとおりだと思います。
楽曲利用の自由度を上げる一方で、ファルコムの営利活動を妨げないような条件をつけているわけですから、ファルコムにしてみれば「どんどんうちの製品の宣伝をしてね〜」と言わんばかりのものでしょう。企業の判断としては至極合理的であると感じます。

問題は、この宣言がゲームミュージック業界に与える影響なんですが……(予想どおり)1ヶ月たっても賛同の動きはないようですね。似たようなことができる唯一の存在はスクエニくらいなものでしょうけど、さてどうなりますやら。

ちなみに、私もイースにはヤラれた口です(笑)
特にイースIIのオープニングを初めて見た時のインパクトは今でも忘れられません。
Posted by まれいん at 2009年07月17日 23:08
翻訳の件でお知らせに参りました。
公開したページはhttp://blog.naver.com/whip00/140078578116
こちらで、コピーはできなくなっております。
ファイル形の翻訳文がお望みでしたら遠慮なく仰ってください。メールで翻訳文をお送りします。
またスパムコメントのため、ネイバのメンバーでなかったらコメントできなくなっておりますが、右側の上段にあるguestをクリックすれば会員でなくても書き込むことができます。^^

貴重な文章をどうも有難うございます。
この記事ではなく他の記事も翻訳する予定でありますのでそのときもどうか宜しくお願いします。:)
Posted by エンスヘンデ at 2009年07月21日 16:06
>エンスヘンデさん
ご連絡ありがとうございました。
私はハングルが読めないので翻訳サイトの力を借りて読ませてもらいました。ほぼ原文どおりのニュアンスになっていると思います。

翻訳作業は大変だったことでしょう。お疲れ様でした。
拙文をより多くの方に読んでもらえれば、とてもうれしいです。どうもありがとうございました。

なお、他の記事を翻訳される場合は、よろしければメール(maleic@mcn.ne.jp)にてお知らせ頂ければ幸いです。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
Posted by まれいん at 2009年07月21日 22:02
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