2007年03月09日

近藤浩治さんのこだわりに見るゲームミュージックの可能性

「音楽」はゲームに命を与える――任天堂サウンドはこうして作られた

スーパーマリオブラザーズをはじめ、数々の有名な「任天堂サウンド」を手がけてきた近藤浩治さんがGDC2007で行なったセッションの記事。
読んでいて、肌の粟立ちが止まりませんでした。
ゲームミュージックはここまで考えて作り込めるものなのかと。

理念を提示し、テクニックの実例を示し、その効果と実績は文句なし。
これほど説得力に満ちたゲームミュージック論は他にないでしょう。まさに「すごい」の一言です。

近藤さんは、ゲームミュージックを制作する上で気をつけているポイントとして「リズム」「バランス」「インタラクティビティ」の3つを挙げています。

まず最初に強く納得させられたのは、「ゲームに表れる『リズム』に合わせた音楽を作る」ということ。
「ゲーム特有のリズムに合っていないと、ただのバックグラウンドミュージックのようになり、どこか別の部屋から流れているように聞こえてしまう」
「生のバンドやオーケストラでは、その演奏者のリズム感になってしまい、ゲームと合わなくなることが多い」
という説は、ストリーミング再生が当たり前となった現代のゲームミュージックが抱える問題点をいきなりあぶり出しているように思えます。
このため、近藤さんはゲームの「リズム」に合わせるために、内蔵音源によるシーケンスミュージックにこだわっているとのこと。
コンピュータのクロックに合わせてキャラクターが動き、ゲームが進むのであれば、音楽もそのクロックに合わせるのがしっくりくるという持論だ。
なるほど、一理ありますね。
この内蔵音源を使う利点については後でさらに掘り下げられていきます……。

次のポイントは「バランス」。ここでは効果音(SE)と音楽のバランス、ゲーム中で使われる楽曲全体のバランス、という2つの意味が込められています。
例えば、効果音で地響きや溶岩が流れる時は、あまり音楽では低音を流さないようにしたり、ゲームの主人公が大体画面の中心に位置していることから、そのキャラクターが出す効果音は真ん中から出るようにすべきで、必然的に音楽は中心には配置せず、左右に振った楽器配置にするようにしていると解説。
素人からすると、これだけでも「恐れ入りました」と言いたくなります。SEと音楽の関係をここまで考えて作っているゲームが、はたしてどれくらいあるのでしょう。

そして、楽曲全体のバランスについて。
このように、ゲーム音楽は1つの曲の中に、いろんな曲が入っているが、1曲1曲で完結しないで、ゲームソフト全体で1曲とする意識が大事と、開発者に改めて問いただす。普通、1曲の中にはイントロ、サビ、エンディングがあるものだが、ゲームではイントロ部分がタイトル曲であり、テーマへ入る導入部がセレクト面であり、サビや盛り上がりの曲がボス面など、そうした全体を見渡し調整する意識が求められるのだとか。
うーん……これも素人ゆえに測りかねるものがあるのですが、かなり高いレベルの意識なんではないでしょうか。
もっとも、ゲームミュージックのサントラをシャッフル再生するとひどく違和感を感じることがあるように、ゲーム中の楽曲にはタイトルから始まってエンディングに至るまでの大きな流れがある程度出来てしまうものなのかもしれません。ゲームのストーリーに起承転結があって、そのシーンごとに合った曲をつけていけば、自然と楽曲の流れにもそういう起承転結ができるわけですから。
とはいえ、作曲の段階で楽曲全体のバランスを考えているという辺りには、やはりレベルの高さを感じます。

そして、3つめのポイントである「インタラクティビティ」。
映画音楽や劇伴とは違うゲームミュージックならではの特徴としてよく指摘されるのがこのインタラクティビティですが、実際にそれを実現している例は少ない……と私なぞは思っていました。
ですが、まあ、具体的に事例を挙げられるとすごいものですね。ちょっとここではいちいち引用しきれないくらいの例が記事には書かれています。中には「こんな細かい変化まで!」と思わせるものもあって、目からウロコが落ちまくりました。
そしてこの論点における大きなポイントは、これらの繊細なインタラクティビティは内蔵音源だからこそ実現できた、ということ。
ゲームミュージック最大の特徴はストリーミング再生などでは生かすことができないという、わかりきったことながら重大な事実が、実例付きで示されてしまったのです。

ストリーミング技術は、事実上あらゆる音をゲーム中で使うことを可能にし、それはコンポーザーの自由な表現を保証しました。それはアーティストとしてのコンポーザーには大きな利点であるのでしょうけど、インタラクティビティという観点から見れば、ゲームミュージックにとっては袋小路だとも言えます。
プレイヤーの行動に関係なく、一方的に垂れ流される音楽。それは所詮背景音楽に過ぎないのだと、近藤さんは遠回しに批判しているのかもしれません。

ともあれ、多くの実例で示されたインタラクティビティには、ゲームミュージックの可能性の大きさを改めて感じさせられました。先の「リズム」「バランス」も合わせて、ゲームミュージックは工夫次第でさらに複雑で深い表現ができるようになるのではないか、という期待を抱かずにはいられません。

=====

……とまあ、ここまでは近藤さんの論を思い切り持ち上げてきたのですが、必ずしもゲームミュージック全体に当てはまるとは言い切れない部分があるのも事実です。
特に、今回のセッションで取り上げられた事例はアクションゲームとアクションRPGばかりである、という点には注意しなければならないでしょう。
近藤さんが挙げた「リズム」や「インタラクティビティ」といったポイントは、アクションゲームにとっては最も効果的である一方、他のジャンルのゲームではポイントになり得ない場合もあります。アクション性の少ないマップ探索型RPGやシミュレーション、ビジュアルノベルなどでは近藤さんの論は当てはまらない部分もあるのではないかと思われます。

多様化が進んでいくゲームにとって、ゲームミュージック制作の「王道」理論というのは存在しないのかもしれません。
ただ、このセッションを通じて示された大きな「王道」は、「ゲームミュージックを作り込むには対象のゲームについてより深く知る必要がある」という、ある意味当たり前の法則ではないかと思うのです。
ゲームの中でどんな動きがあって、どんなエフェクトがあって、どんなシーンが描かれ、どんな場面転換があるのか、等々。おそらく、ゲームミュージックを制作する上では当たり前に知らねばならないことなのでしょうけど、それらをより深く理解し把握して、それに沿った音楽を作り込むことができれば、ゲームミュージックはより繊細で複雑な表現ができるようになる、というのがこのセッションの裏テーマだったのではないでしょうか。

ちなみに、近藤さんは任天堂に勤務する、いわゆる「サラコン」。開発中のゲームに触れられる機会は、フリーのコンポーザーとは比較にならないくらい多いでしょう。その立場こそが、セッションで明らかになった深い作り込みを支えているのだとしたら……はたして、フリーのコンポーザーに勝ち目はあるのでしょうか。

ゲーム制作側と音楽制作側との強い連携こそが、今後のゲームミュージック発展の鍵になるのかもしれません。
posted by まれいん at 03:06| Comment(0) | TrackBack(2) | 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

近藤浩治さんの語るゲーム音楽とは。
Excerpt: サンフランシスコで開催されている、Game Developers Conference 2007で行われた、任天堂サウンド統括グループマネージャーを務める近藤浩治さんの講演のニュースです。 任天堂の..
Weblog: ゲーム音楽を聴こう
Tracked: 2007-03-09 14:43

チップミュージックとゲームミュージックの違い
Excerpt: 最近注目されている音楽の1つに「チップチューン」がある。 昔の家庭用ゲームマシン、PCの音源で曲を作る方法なんだけれども ・チップチュ...
Weblog: 「ゲームミュージック論」構築計画
Tracked: 2008-03-11 00:13
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。